甦ったトヨタらしさ。
東京Sgから12季ぶり勝利
リーグワン第10節は3月5日、東京・秩父宮ラグビー場で行われ、トヨタヴェルブリッツは27-20で3位の東京サントリーサンゴリアス(東京SG)を下し、今季4勝目を挙げた。東京Sgからは2010年シーズン以来の勝利となる。
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久々に「トヨタらしさ」を取り戻した80分間だった。
前節、横浜キヤノンイーグルス(横浜E)に7-39で敗戦。通算成績が3勝6敗となり、入替戦出場の10位まで順位を落とした。今季は開幕こそ勝利で飾ったものの、第2節三菱重工相模原ダイナボアーズ戦の黒星以降、なかなか上昇気流に乗れなかった。FL姫野和樹共同キャプテンは言う。
「三菱に負けた後、自分たち自身で複雑化してしまった。色々変化を加えたり戻したり...」
横浜E戦での完敗が、改めて原点を見つめ直すきっかけとなる。
「今週、特別なことはしてません。チームが迷った部分があったので、同じ絵を見てコネクトする、自信を与えることにフォーカスした。明確にシンプルに。自信を持ってやる」(姫野共同キャプテン)
これまでにない状況にスタッフも一丸となる。スティーブ・ハンセンDORもグラウンドで練習を直接指導。背水の陣で東京に乗り込んだ。
試合は開始から東京SG相手に激しく前に出た。ブレイクダウンも持ち前の烈しさで圧倒。カウンターラックも勢いを取り戻した。
大きく修正されたのがディフェンスだ。速いラインスピードで前に出て、アタックを身上とする東京SGのゲインを許さない。これまではギャップをつかれることもあったが、横にいる選手と連携しあい、網を張った。倒れた選手もすぐに起き上がり、人数的に不利な状況を作らなかった。
8分、相手陣スクラムから鮮やかな先制トライを奪う。SOウィリー・ルルーの背後に走り込んだ右WTB髙橋汰地が左WTBヴィリアメ・ツイドラキへロングパス。左隅に飛び込んだ。起点は相手ボールスクラムの球出しにSH茂野海人が絡み、ノックオンを誘って得たマイボールのスクラム。進撃の始まりだった。
東京SGは、トヨタの接点での勢いに、次第にミスや反則が続くように。これまでの試合とはネガとポジを反転させた流れで、時間は進んだ。
24分に東京SGにトライを返され、5-5の同点に。31分にはラインアウトモールからサイド攻撃を仕掛けたHO彦坂圭克をフォローしたLOアイザイア・マプスアがトライ。12-5と勝ち越す。終了間際にもFBティアーン・ファルコンがPGを決め、15-5で折り返した。
後半、先にトライを奪ったのは東京SG。だがすぐにトヨタも13人のラインアウトモールからHO彦坂圭がトライ。20-12とリードを広げる。
相手は昨季の準優勝チーム。エリアや支配率で上回りながらも、なかなか突き放すことはできない。クロスゲームに決着がついたのは、後半34分のことだった。
相手陣10m付近のラインアウトから3分近く、攻撃を重ねる。FWBK関係なく辛抱強くボールを繋ぎ、じりじりと前進。8次を数えたところでCTBロブ・トンプソンが抜けだし、ゴール前へ。すぐにSH福田健太が持ち込み、最後はFL姫野が抑えた。規律高く全員が繋ぎ続けたボールを、キャプテンがフィニッシュ。8点差とした。この日の戦い方を象徴するトライだった。
その後の東京SGの猛攻も、全員で止め続けた。終了寸前、東京SGは勝ち点獲得のためPGを選択し、最終スコアは27-20。トヨタが勝利を挙げた。
前節の横浜E戦はタックル数113に対し、ミスタックルが49。この日はタックル数156でミスタックルが25。防御の改善は数字にも表れた。
対照的にビッグゲインはなかった。TMO判定でトライキャンセルとなったFBファルコンの独走(後半6分)を除けば、誰かが大きく抜け出す場面はなかった。一人ひとりが組織として機能していたから、トライを奪われても崩れなかった。
東京SGの田中澄憲監督は「トヨタのハードワーク、ハングリー精神に尽きる」。SH齋藤直人共同キャプテンも「想像以上にプレッシャーを受けて、いつもならしっかりセットできるところで、遅れてしまった」と振り返った。
会見に出た姫野共同キャプテンの声は嗄れていた。80分間、仲間を鼓舞し続けた証だ。練習から声を出し、プレーで引っ張り、チームを覚醒させたリーダーは仲間を称えた。
「僕はみんなの心に火をつけただけ。
トヨタのスタイルはパッションを持って、エナジーを持ってやること。それがカルチャー。一人ひとりの火つけ役が僕の役割」
新戦力も収穫だった。前半31分にトライを奪ったLOアイザイア・マプスアだ。本人も「ビックリしました」。慶大からチームに合流して3週目、アーリーエントリー選手のトライ1号にもなった。SH茂野海人も「戦術の理解度が高い」と認める。バックファイブの層を厚くしてくれそうだ。
これまでずっともがいていた。崖っぷちまで追い詰められた。そこで原点に立ち返り、ワールドカップ優勝選手も、まだ学生証を持つ選手もひたむきに身体を張り続けたら、東京SGから12季ぶりの勝利が手に入った。つくづく、ラグビーは奥深い。
(写真説明)
①東京SG 松島幸太朗にタックルするCTBバティリアイ・ツイドラキとFLピーターステフ・デュトイ
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②アーリーエントリーで出場したLOアイザイア・マプスア
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③モールからトライを奪ったHO彦坂圭克
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④後半34分、FL姫野和樹共同キャプテンが試合を決定づけるトライを奪う
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⑤会心の勝利に笑顔がこぼれる
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