12人で守り、攻めた7分間。
神戸Sに逆転勝ち
トヨタヴェルブリッツは1月28日、交流戦初戦でコベルコ神戸スティーラーズ(神戸S)と神戸総合運動公園ユニバー記念競技場で対戦。試合は後半、トヨタが4連続トライで逆転したが、終盤にイエローカードが3枚出て12人に。残り10分、12点差を守りきりトライを追加。38-21で今季2勝目を挙げた。
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待望の2勝目は、苦しんで苦しんだ末に訪れた。気温4度、後半に雪が舞った極寒のユニバー競技場。この日の試合は、まるで3本の違う映画を観ているようだった。
1本目は前半40分。神戸Sの試合開始のキックオフがダイレクトタッチとなり、トヨタはセンタースクラムを選択。アタックするも、ターンオーバーから先制トライを許す。その後はSOティアーン・ファルコンが3PGを重ねて、9-7と逆転。アタックを意識しつつも無理をせず、慎重に得点を重ねた。だが18分にはラインアウトモールからトライを奪われ、9-14で折り返した。攻めてもフィニッシュまでつながらない、もどかしい前半だった。
2本目は後半開始からの20分。うって変わって一気呵成のアタックを見せた。SOファルコンのキックオフから、アタックを継続。最後はFBヴィリアミ・ツイドラキが兄のCTBバティリアイからパスをもらって兄弟でフィニッシュ(開始2分)。
「前半、FWはめっちゃ頑張ってくれたんですけど、BKはファーストフェイズでミスが目立ったから、ハーフタイムでは"もっとボールを大切にしよう"と」(SH福田健太)
8分にはラインアウトモールを押しこんでからBKへ。左端にいたWTBジョネ・ナベテレヴが長身を利してインゴールでボールを抑えた。11分には、自陣のラインアウトモールからHO彦坂圭克が抜け出し、フォローしたSH福田健太にパス。福田は俊足を活かして30㍍近く走り切った。これで28-14。
「圭さんが抜けそうだったので、抜けた瞬間、"ヨシーッ"と大声で呼びました」(福田)
「僕では走りきれないと思ったので、"ありがとう"と、放りました(笑)」(彦坂)
ディフェンスしていた相手がモールに入った瞬間を見逃さずにスペースをついた彦坂、それを察知してフォローした福田。落ち着いて状況を見極めていた2人の嗅覚が生んだトライだった。
16分には今度はラインアウトモールからHO彦坂がトライ。コンバージョンは外れたが、これで33-14。残り時間20分余、19点のリードを守り切ればよいはずだった。
だがここで予期しなかった3本目の幕が開く。29分、相手がインゴール付近になだれ込んできた際、SOファルコンがノットロールアウェーの判定でイエローカードに。その直後、ゴール前スクラムから神戸Sが攻めた際、ディフェンスに行ったLO西村龍馬が相手の頭部と接触、TMOで危険なプレーとの判断で、こちらもイエローカードに。
その1分後、ゴール前スクラムから神戸Sにトライを奪われ、リードは12点に縮まった。33分には、交代出場してすぐのFBウィリー・ルルーが、故意のノックオンとのTMOの判断で3枚目のイエローに。残り時間、12人で戦わざるを得ない状況となった。
ルルーのペナルティで相手はタッチキックを選択。ラインアウトから攻めた。そこで出来た密集でFL古川聖人がターンオーバー。横にいたWTB髙橋汰地に素早くパス、髙橋は相手陣に蹴りこんだボールを全力でチェイス。ぎりぎりボールを確保した。この時点で残り7分。
後は、ボールをキープし続けて時間を使うこと。反則やターンオーバーで相手に攻撃権を渡せば、人数的に大きなハンディとなる。攻撃は最大の防御。グラウンドにいた12人がFWBK関係なく愚直に身体を張り続けた。フェイズを重ね、じりじりと相手のゴールラインへ。SO不在の状況で試合をコントロールしたのは、SH福田に代わって出場していたSH茂野海人。状況を冷静に見つつ、自在にボールを捌きFWを操った。チームを知り尽くしたベテランの真骨頂だった。
27フェイズを重ねたところでターンオーバー。残り時間は4分を切っていた。相手もプレーを切らず懸命に繋ぐ。そこで今度はWTBナベテレヴが球を奪い取り、再び相手陣へ。ゴール前でペナルティをもらうと、PGを狙わず古川がタップ。最後はFLとして初先発したウィリアム・トゥポウが抑え、TMOでトライが認められた。スコアは38-21。これが3本目のラストシーンだった。
古川共同キャプテンは「自分たちが見せたかったものを、感じてもらえたと思う。今に集中することが出来た」と振り返った。
値千金のターンオーバーは、こぼれたボールに咄嗟に反応したもの。きっかけはゲームキャプテンのFLピーターステフ・デュトイが一瞬で相手の身体を反転させたタックルだった。
「これまでだったら、(ターンオーバー)できなかったかもしれない。今に集中したからこそ反応できた」(古川)
プレーヤー・オブ・ザ・マッチのHO彦坂も「今週はずっと自分たちからテイク(取り)する、ボールを持ったらとにかく前に進むとやってきた」
終盤、数的不利な状況に追い込まれたことで、かえって結束が強まった。
「我々よりトヨタのほうがハングリーだった」と神戸Sのニコラス・ホルテンHC。
12人でがむしゃらに戦った7分間。その時間が、残り試合を戦う上での拠り所となる。
①神戸Sのゲームキャプテンは南ア代表FLマルセル・クッツェー(左)。
シャークス時代の同僚でもあり、表情を和らげるデュトイ
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②プレシーズンにFL転向、タックルにパスに輝きを放ったウィリアム・トゥポウ
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③随所で持ち前の突破力を見せたHO彦坂圭克
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④ターンオーバーでチームを救ったFL古川聖人共同キャプテン
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