2023/11/29
去年の自分を超え、宿敵を超える戦いを勝ち抜き、ついにレッドテリアーズの選手たちは日本一の栄冠をつかんだ。11月18・19日におこなわれた、女子ソフトボール「JDリーグ」の年間チャンピオンを決める頂上決戦ダイヤモンドシリーズ。セミファイナルの豊田自動織機戦、ファイナルのビックカメラ高崎戦はともに息詰まるような試合となった。運命に導かれたように、ドラマチックでしびれる展開が続いた「超戦」の2日間を振り返る。
この日の大平選手の3安打は全てアウトコースの球。実は、昨年ホームランを打たれたのは内角の甘いボールだった。1球の重さを思い知った若いバッテリーは、1年前の呪縛から解き放たれるかのように、この日使っていなかったインコースを思い切って攻めた。1-1のカウントから後藤投手が内角に力のあるストレート。打球は力なくセカンドの前に転がり、鎌田優希選手がさばいてファーストに。3-0で試合が終了した。
一夜明けて、いよいよファイナル。相手は、順当に勝ち上がってきた東地区1位のビックカメラ高崎。JDリーグの初代女王で、前身の日本リーグ時代から含めると4連覇中。常にレッドテリアーズの前に立ちふさがってきた宿敵だが、昨シーズンは開幕戦で勝利したものの、最後は戦うことができなかった。円陣を組み、「ここに立てることに感謝して、楽しんでいきましょう!」と気勢を上げたレッドテリアーズの選手たち。その想いは初回、先制点という形で実る。3番の原田のどか選手が変化球を捉え、レフトを越えるソロ本塁打を放った。
今年移籍してきた14年目の原田選手は、最年長でありながらムードメーカーの役割も買って出て「一家に1台」と称される存在だ。「若い子たちに刺激を受けながら、新たな自分を見つけようという気持ちで取り組んできた」と奮闘する金メダリストの一発に、ベンチも沸き返った。レッドテリアーズの先発は前日に続きメーガン・ファライモ投手。今シーズンに途中加入した右腕は、ガッツポーズや雄たけびで気持ちを前面に出すスタイルで、チームにリズムを作ってきた。この日も初回からエンジン全開で気持ちの入ったボールを投げ込んでいく。
後藤投手は5回を打者3人で切り抜けるが、ビックカメラ高崎は勝負を諦めない。6回に41歳のレジェンド、上野由岐子投手をマウンドに送り出す。この回を3者凡退で抑えられ、7回も主軸が2者連続三振を喫してしまう。最終回の守りを前にして打線が沈黙。レジェンドの気迫の投球に押されて、不穏なムードが漂う。この空気を変えたのもホームランだった。5番下山選手が1-1から外角の変化球を逆らわずに打ち返すと、打球は右中間のフェンスを越えた。下山選手の帽子のつばには、原田選手からのメッセージが書かれている。「山(下山)ならできる。山にしかできない。大丈夫、後ろにみんながいる。貫け!3・4パワー」。大好きな先輩からアドバイスを受け、本塁打と打点の2冠のタイトルを獲るまでに成長。シーズン最後の試合を、背番号3(下山選手)と4(原田選手)のホームランで飾ることができた。
貴重な追加点を挙げて2点リードし、最終回のマウンドに上がった後藤投手。2アウトまでこぎつけ、最後のバッターが打ち上げた打球はレフトへ。バッバ・ニクルス選手ががっちりとキャッチしてゲームセット!2-0でファイナルを制し、5年ぶりの日本一。ベンチから飛び出した選手たちは、マウンドの前に倒れて次々と重なり合い、喜びを表現した。スタンドからはテープが投げ込まれ、泣きながら抱き合う選手たち。どんな時もチームを見守ってきた河合おやじ(河合満顧問)も「常に課題を持って挑戦して結果が今日出ました。本当に強くなったし、みんなが本当に成長した」と選手たちに温かい言葉を掛けた。そして、馬場幸子監督の胴上げへ。選手たちは歓喜の余韻に浸った。「優勝しました!トヨタがチャンピオンです!Yes,WeareNo.1!」
試合後、馬場馬場監督が特に挙げたのが、バッテリーの成長。「切石が去年はすごく悔しい思いをして、それを持ってピッチャー陣をリードしてきた。しっかりとコミュニケーションを取って、後藤の気持ちを上げながら厳しく叱ったりして、そういうことを繰り返してきた切石のおかげです」と話す。監督は「支えてくれる人たちがたくさんいることを、感じることができた1年間。本当に一つ一つの“超戦"だったので、ここまで来れて皆さんに喜んでもらえて本当に良かったと思います」と振り返った。
次のシーズンに向けて、鎌田選手は「連覇するのはすごい難しいと思うんですけど、王者というよりは2連覇を目指すチャレンジャーとして戦いたいという思いがあります。今年優勝を経験できて最高の瞬間を味わえたので、またあの一瞬のためにしっかり1年間かけて成長していきたいなと思います」と語る。2028年のロサンゼルス大会では追加競技として復活することが決まり、ソフトボールが再び盛り上がりを見せようとしている。レッドテリアーズの選手たちがこれから王者としてどのように戦い、どのような成長を見せていくのか。その「超戦」を見守っていきたい。なお、11月24日のトヨタイムズスポーツでは、鎌田選手と切石選手をゲストに迎え、ダイヤモンドシリーズをダイジェストで振り返った。ビールかけならぬ○○○かけの様子なども見ることができる。
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