2026/07/03

大陸予選を勝ち抜いた世界21か国の精鋭約50名が集結し、国別対抗戦(団体戦)と個人戦のタイトルを争う「2026トヨタジュニアゴルフワールドカップ」。6月23日からの本大会開幕を前に、トヨタ自動車が特別協賛するこの大会ならではの特別プログラム「アスリート交流会」が、名古屋市内のトヨタ自動車 葵体育館にて開催された。
トヨタは、次世代を担う人材の育成を目的に、本大会への協賛を長年にわたり継続している。1992年に始まり今年で32回目を迎えるトヨタジュニアゴルフワールドカップは、世界6大陸、70を超える国と地域で予選を勝ち抜いたナショナルチームが出場する、ジュニア唯一の国別対抗世界選手権だ。世界アマチュアゴルフランキングにおいても高い評価を受ける、世界屈指のジュニアゴルフ大会のひとつである。
その実績は数字が物語る。2024年パリ大会のゴルフ競技では、出場選手の約4割が本大会出身者。松山英樹(日本)、スコッティー・シェフラー(アメリカ)、ジョン・ラーム(スペイン)といった、のちにメジャータイトルを手にした名選手たちもこの舞台を踏んできた。若きゴルファーたちにとって、この大会で戦うことは、世界への確かな一歩となってきた。
では、なぜトヨタはこの大会を支え続けるのか。その答えは、「競技力」だけでなく「人としての成長」を後押ししたいという思いにある。

大会チェアマン・ウイリアム・カーダイク氏(左)と、サブチェアマン・田頭英治氏(右)
各国の選手たちが母国を背負い競い合うこの大会は、単なるゴルフの国際大会ではない。異なる文化や価値観を持つ選手同士が国境を越えて交流し、指導者間では育成プログラムを共有し合う。
大会期間中には文化体験や親善イベントも実施され、選手たちは日本文化に触れながら多様な価値観と向き合う機会を得る。

さらに、大会運営では水素自動車からの電力供給など、環境に配慮した取り組みも行われており、持続可能なスポーツ社会の実現にも寄与している。
そして、金銭的なサポートにとどまらないのがトヨタならではの支援の形だ。世界で活躍するトップアスリートを多数抱えるトヨタだからこそ実現できる、アスリートによる座談会プログラムを2023年大会より毎年実施。競技力向上のヒントはもちろん、挫折の乗り越え方、世界で戦うメンタルの築き方など、人間的成長につながる学びを直接届けてきた。
「スポーツを通じて挑戦する人を支え、一人ひとりの可能性を広げる」。トヨタが掲げるこの思いが、毎年この大会をより豊かなものにしている。


本大会開幕3日前の6月20日、選手たちは名古屋市内の葵体育館に集結し、「アスリート交流会」に参加した。
昨年はパラ陸上・やり投の高橋峻也選手が登壇したが、今年はさらに進化した形で、「話を聞く」だけでなく「体で感じる」——義足体験という新たなプログラムが加わったことで、選手たちはパラアスリートの世界をより深くリアルに体感することになった。
今年登壇したのは、トヨタ自動車に所属するパラ陸上選手の石田駆と、現役を引退した佐藤圭太の2名。
石田は大学入学直後に骨肉腫を発症し左上腕が人工骨頭となりながらも、2021年東京大会の100mで5位入賞を果たした。佐藤は中学3年時に右下腿を切断するも、2016年リオデジャネイロ大会の4×100mリレーで銅メダルを獲得した。ともに逆境を乗り越えてきた世界レベルのアスリートだ。

左・石田駆、右・佐藤圭太
座談会に先立ち、ジュニアアスリートたちは実際に義足を装着して歩く体験に挑んだ。体験の前、佐藤は自身の義足を外し、自分の足を見せながら、今の足について説明を始めた。その瞬間、それまでの雰囲気が変わり、選手たちは一斉に話を聞く姿勢になった。誰もが真剣な眼差しを向け、その言葉に耳を傾けていた。佐藤が続けて競技用の義足を高々と掲げながら、その構造や仕組みを説明すると、全員の視線がさらに一点に集まった。
会場に用意されたマットの上で、選手たちが次々と義足を装着していく。最初は恐る恐る一歩を踏み出すものの、慣れてくると独特の反発力を活かして弾むように進み、体育館には歓声と笑い声が広がった。佐藤や石田のサポートを受けながらバランスを取る選手、仲間と笑い合いながら歩く選手 。慣れない動きと初めての経験に、誰もが楽しさを感じている様子だった。


体験を終えた選手たちからは、率直な驚きの声が次々と上がった。長﨑大星選手(男子/日本)は「思ったより平衡感覚が難しかった」と戸惑いを見せつつも、「思ったより跳ねたりもできて、いろんなことができるんだなと思った」と、予想を超えた感覚に目を輝かせた。松山茉生選手(男子/日本)は「違和感しかなかった」と正直な感想を口にする。ルーロフ・クレイグ選手(男子/南アフリカ)は、その独特の感覚を「ふわふわしている」と表現し、笑顔を見せた。

自分の足で当たり前のように立ち、走り、プレーしてきた選手たちにとって、義足を通じて初めて知るその感覚は、日常では決して得られない気づきをもたらした。自分の体を動かせること、当たり前にプレーできること——その有り難さを、選手たちは身をもって見つめ直したようだ。たった数分の体験でさえ、選手たちそれぞれにとって何かの気づきの入り口になったに違いない。足を失いながらも、義足という新たな足で歩み、走り、競技を続け、障害を乗り越えてきたパラアスリートたち。その強さを、選手たちは自らの体を通して初めて実感したようだった。
義足体験を終えた選手たちが再び床に腰を下ろすと、座談会がスタートした。各国のジュニアアスリート、そしてコーチたちから、さまざまな角度の質問が次々と飛び交う。

義足体験を終え、再び集まった選手たちと始まる座談会
障害と向き合い、前を向けるようになった理由を問われ、佐藤が挙げたのは、同じ境遇で戦うアスリートたちの存在だった。かつてはコンプレックスを抱え、人の目が気になった時期もあったという。そんな佐藤の心を動かしたのは、自分と同じ義足で、堂々と世界の舞台に立つ先輩アスリートたちの姿だった。「かっこいい」――そう思えた瞬間から、自分の体の捉え方が少しずつ変わっていったのだという。「結局は自分の気持ち次第。若いからこそ、いろんな人の影響を受けてほしい」。自らの経験に裏打ちされた言葉には、確かな説得力がこもっていた。
一方、石田が前を向くきっかけとなったのは、周囲の支えだった。骨肉腫の告知を受け、絶望の淵に立たされたとき、寄り添い、背中を押してくれたのは家族やチームメイトの存在だった。一人では立ち上がれなかったかもしれない――そう振り返る石田が、ジュニアアスリートたちに伝えたかったのは、感謝の心だ。「支えてくれる人への感謝を忘れないでほしい」。その言葉は、逆境を越えてきた者だからこそ持つ、静かな重みを帯びていた。
座談会の最後、2人がジュニアたちに贈ったのは、若さへのエールだった。石田は、目の前の才能たちへ惜しみない尊敬を寄せる。「皆さんはこの年代でもう世界トップクラス。自分の高校時代とはレベルが違う。本当に尊敬しています」。佐藤が託したのは、今しかない時間の使い方だ。「若いうちは無我夢中でやるべき。大人になると、いろいろ計算してしまうから。失敗を恐れずチャレンジできるのは、今だからこそです」。
競技も、境遇も、歩んできた道も違う。それでも、世界の頂を見続けてきた者同士、2人は互いの生き様に深い敬意を抱いているようだった。立場を越えて響き合うその姿は、若きゴルファーたちの未来へ、確かな糧を残したに違いない。

石田・佐藤の言葉が、海外の選手たちの心に届く
交流会を終えたジュニアアスリートたちは、パラアスリートの言葉から多くのものを受け取った様子だった。逆境のなかでも自分を信じ、結果を残してきた二人の生き様。その姿勢に、世界を目指す若きゴルファーたちは、競技の垣根を越えた刺激を受けていた。苦しい時期をどう乗り越えるか、世界の舞台でどう自分と向き合うか——それぞれが、これからの競技人生に通じる確かな学びを胸に刻んだようだった。
そして話題は、いよいよ本大会への意気込みへと移っていく。今回、日本代表の男子3選手にあらためて話を聞いた。
昨年の本大会で個人・団体2冠を達成した長﨑大星選手(勇志国際高校2年)は、ディフェンディングチャンピオンとしての決意を口にする。「去年は団体と個人で同点優勝だったので、今年は団体はもっと差をつけて優勝したいですし、個人もしっかり単独優勝できるように頑張りたい」と力強く語った。
松山茉生選手(福井工業大附属福井高校3年)は、チームへの信頼を胸に個人の戦いに集中する構えだ。「チームの仲間も強いですし、みんな仲がいいので信頼している。自分がやるべきことを最後まで全力でやって、個人優勝を目指したい」と言葉に力を込めた。
初出場となる小川琥太郎選手(大阪学院大学高校3年)は「コースも大会の雰囲気もまだわからないですが、練習ラウンドで雰囲気をつかんで、団体・個人優勝を目指して全力を尽くしたい」と、初々しくも頼もしい意気込みを見せた。
3選手の誓いは、コースで確かに実を結んだ。
日本男子チームは大会連覇を達成。最終日、長﨑・小川・松山の3選手はアメリカ、カナダと並ぶトータル22アンダーでホールアウトし、不採用スコアの合計数による規定でライバルを退け、頂点を守り切った。大会史上初の快挙でもある。個人戦では長﨑がトータル10アンダーの5位タイ、小川がトータル9アンダーの8位タイ、松山がトータル8アンダーの11位だった。

大会連覇を達成した日本代表男子チーム
日本女子チームでは、岩永杏奈が4日間一度もトップを譲らない完全優勝で個人タイトルを掴んだ。廣吉優梨菜は通算3アンダーの8位、佐々心美は通算13オーバーの26位。団体戦では韓国に6打及ばず2位タイに終わった。

女子個人タイトルを手にした岩永杏奈
逆境を越えてきたパラアスリートの言葉を胸に、世界の舞台で堂々と戦い抜いた選手たち。男女それぞれに喜びと悔しさが交錯した大会となったが、その経験はこれからの競技人生への確かな糧となるはずだ。世界を目指す若きゴルファーたちのさらなる成長と躍進から、これからも目が離せない。


















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