2022/09/20
9月14日に配信されたトヨタイムズ放送部は、3年ぶりに日本で開催されたWEC(FIA世界耐久選手権)を特集。スタジオでは、第5戦の富士6時間耐久レースを1-2フィニッシュで飾ったTOYOTA GAZOO Racing(TGR)チームから、ドライバーを兼任する小林可夢偉代表と平川亮選手が生出演した。レース結果はもちろん、WECでのクルマづくりや来年への展望、ドライバーの個性、特別な前哨戦まで幅広く、そして深く迫っていく濃密な内容の放送となった。
3日前に凱旋優勝を果たした平川選手と可夢偉代表は、スタジオでも晴れやかな笑顔。ル・マン24時間をそれぞれ今年と昨年に制した日本人ドライバーが、並んで座る豪華なツーショットだ。
番組ではふたりのプロフィールを丁寧に解説。放送前日に可夢偉代表が誕生日を迎えていたことが判明すると、視聴者から祝福のコメントが。平川選手が日焼けしている理由についても明らかにされた。
レースの約1週間前、日本に到着したTGRのドライバーたちが向かったサーキットは、富士ではなく、もてぎ。放送部の特別企画として行われた、スーパー耐久のROOKIE Racingチームとのレース対決に参加するためだった。
水素エンジンでのタイムアタック対決は、水素カローラとコースを熟知しているモリゾウ選手が勝利。WECのドライバー2人は、初めて乗ったとは思えない順応ぶりを見せたが、敗れて悔しがっていた。ブエミ選手は、富士で優勝した直後にも「リベンジしたい」と語っていたほど。
このタイムアタックの走行データを、「モリゾウの運転をもっと上手くする男」こと佐々木雅弘選手が分析。モリゾウ選手とコンウェイ選手、それぞれの凄みについて詳しく解説していた。
また、デビュー1年が経過した水素エンジンについて、可夢偉代表は「国内ではいろいろ展開できて、世界的に可能性を理解していただくフェーズに入っている。外国人ドライバーが乗って、どう感じるかをフィードバックされたりすることによって、(海外の関係者も)水素や内燃機関の可能性に着目している。カーボンニュートラルのソリューションの一つとして、ポジションも上がった」とコメントした。
可夢偉代表と平川選手も出場したチーム対決の結果は、ぜひアーカイブを見ていただきたい。
WECでのクルマづくりの重要性について、森田京之介キャスターは富士の現地で取材。元チャンピオンでもあるTGRヨーロッパの中嶋一貴副会長は、「世界のトップのレベルでクルマの信頼性を鍛え、そしてヒトの力を鍛え、というところが、WECの1番大きな意義」と語る。
クルマは、レース前にホモロゲーション(認証)を通ると、それ以上の開発は禁じられている。そこから性能を引き出すためには、たとえばエンジンの最大出力が決められた中で、出力を上げていく過程をいかにドライバーがコントロールしやすくするかなど、さまざまな微調整が求められることになる。
「24時間を戦ってドライバーが乗りやすいクルマでないと、最後までいいパフォーマンスを出すことはできない。極力イコールコンディションになるようなルールなので、最終的にレース結果の違いを作るのはヒトの力。ドライバーもそうですが、メカニックやエンジニア、チームの総合力としてのヒトの力で勝ちを取りにいかないといけない」と中嶋副会長。
可夢偉代表も「最後にどこでタイム差を出すかは、ドライバーが気持ち良く乗れるか、自信を持って自分らしく乗れるか。車の細かい一つ一つの調整になっている」と言い、チーム内でのコミュニケーションの円滑化に努めているという。
GR010ハイブリッドにとっては、パワートレイン部分が東富士研究所で生まれた縁があり、地元でのレースだとも言える。平川選手は「しっかりと皆さんの想いも乗せて走りたい」と話す。
森田キャスターは、ピット裏やTGRのピットにも潜入取材した。タイヤを温めるヒーターなど、WECならではの設備も発見。ピット内では映像のところどころにボカシが入っているのも、最新技術が集約されたレースのリアルな雰囲気を感じさせる。
ピットを案内した中嶋副会長は「チェッカーを受ける時は、ピットウォールというスタンドにみんな行って、最後にクルマを迎える。その瞬間が耐久レースを戦っている一番の醍醐味」と話す。この言葉がある意味で、今回の放送の“前フリ"となることに。
可夢偉代表は、お客さんの層や、キャンプをしながらレースを見る人など、WECの雰囲気がいつもの富士でのレースとは全く違っていたと語る。平川選手はいつも通りの気持ちでレースに臨めたというが、ドライバーたちで夕食に行く場所を予約する「晩ご飯担当」には苦戦したそうだ。
いよいよレース当日。森田キャスターの「さあ!3年ぶりに聞こう!このWECの音!」の実況と共にスタートした後、番組ではレースシーンやオンボードカメラ、ピットなどの映像をハイライトで紹介した。
ポールポジションだった可夢偉代表らの7号車を抜き、64周目で平川選手らの8号車が首位に。そのままチェッカーを受けてTGRが1-2フィニッシュ。レース直後の可夢偉代表やドライバーたちの生のコメントも、番組ではしっかりと取材しているのでお見逃しなく。
スタジオに戻り、平川選手は「世界選手権を日本で走るという特別なレースだったんですけど、誰しもが本当に完璧な仕事をして、まだ優勝に浸っているような感じ」とコメントしていた。
ここで可夢偉代表から、チェッカーを受ける時には写真を撮るので、スローダウンして走ってほしいと平川選手に注文。「みんなで旗を準備して待っているんですすけど、『あれ、通り過ぎた?』みたいな(笑)。余裕があるからゆっくり走ってくれたらいいんですけど、全然気にせず全開で行ってしまって」と言う。
平川選手は「トラウマがあって、何年か前に最終コーナーでガス欠して。僕がチェッカードライバーをやる限りは、スローダウンすることはないです」と全開宣言。可夢偉代表も「えーっ!」と苦笑していた。
2020年のスーパーGT最終戦では、ゴール直前に失速して優勝と年間王者を逃し、プロとして最後まで気を抜きたくない平川選手。一緒に戦ったチーム全員のために、みんなで勝利の瞬間を感じたいという可夢偉代表。どちらの立場も、なるほどと理解できるだけに、とても興味深いやりとりとなった。
番組を見ていた豊田社長も、コメントで「可夢偉、チーム全員を労う発言、代表としてすごいな」「全開。いつもガチ、本気がいいね」と、それぞれをリスペクトしていた。
来年からWECは大きく変わる。フェラーリ、ポルシェ、キャデラックが参戦し、2024年以降はBMWやランボルギーニも走る予定。中嶋副会長は「ここまでTGRとしてル・マンを5連覇できていますが、そこで培ったものが本当の意味で試されるのが来年以降。絶対に負けられない戦いになると思います」と話し、スタジオの可夢偉代表や平川選手も豊富を語った。
70分を超える“耐久レース"となった今回の放送。それでも可夢偉代表は、カーボンニュートラルに向けた新たな試みなど、まだまだ話し足りない様子だった。ぜひ最終戦も、そして来年以降も勝ち続けて、彼らが再び笑顔でスタジオに戻ってくることを期待しよう!
小林可夢偉
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