2025/09/10
9月5日のトヨタイムズスポーツは、義足の人たちの「走りたい」を競技用義足(ブレード)で叶える「ギソクの図書館」の活動を特集した。
昨夏現役を引退した元パラ陸上選手の佐藤圭太さんがスタジオに生出演。活動を始めたきっかけや、日常用の義足とブレードの違い、健常者にも知ってほしいことなどを熱く語った。
「ブレードランニングクリニック」の取材では、幅広い年代の人たちがブレードを装着して全力疾走。走り終えた参加者の笑顔が印象的な番組となった。
「走りたいと願う義足の子が一人でもいれば 走れるようにしてあげたい」
佐藤さんの一言から始まった「ギソクの図書館」は、装着の難しさや価格などの理由でハードルが高い競技用義足を、誰でも試すことができる場所を提供しようと、2017年に設立。さまざまな種類のブレードを用意して図書館のように貸し出し、東京・有明で月1回の「ブレードランニングクリニック」などの活動を行っている。現在はNPO法人となり、佐藤さんは理事を務めている。
佐藤さんと言えば、15歳の時に病気で右足の膝下を切断し、パラ陸上の短距離で頭角を現してリオ2016パラリンピックでは400mリレーで銅メダルを獲得。数々の日本記録やアジア記録を樹立してきた。きっかけとなった一言は、リオ大会の直前に合宿を行っていた当時の言葉だそうだ。
「そういった機会があったらいいなと、自然とこの言葉が出てきたと思います。僕は15歳までサッカーをやっていて、日常用義足を付けた時に『もうスポーツは無理だな』と思いました。そんな僕を見て、いろんな方が僕の人生を想って、ブレードを提供してくれたんです。それがあって僕は走ることができたので、自分がしていただいた恩を、今度は誰かのためにしてあげたいなという想いがありました」
佐藤さんは2024年夏に競技を引退したが、ギソクの図書館の活動は現役当時から続けてきた。
その理由について、「義足になる理由は僕みたいに病気になるパターンもあって、足を切って完治する場合もあれば、その後再発する可能性も出てきてしまうんです。義足にリミットがある場合もある。(だから)走りたいと思っている子がいたら、すぐに走る機会を用意しないといけない。これは先延ばしすることじゃないなと、現役中も思ってやっていました」と語る。
まず番組では、日常用の義足と競技用のブレードについて、それぞれの特徴や装着した感覚などを紹介した。佐藤さんが自分の義足を見せながら行った解説は15:07から。
日常用の義足は、実際の足の形状に近く、靴を履くこともできる。安定して体重を支えることができるが、足首などを動かすことはできず、ギプスで足を固定されている状態に似ているという。
競技用のブレードは、つま先に向けてカーブ状になったカーボンがたわむことによって、弾むように地面を踏み出すことができる。接地面は少なく、つま先部分の底はスパイクのようになっている。
初めて競技用に変えた時の感覚について、佐藤さんは「昔みたいに走れるんじゃないかと期待感を与えてくれました。身体的な変化よりも、未来に向かって進めていけると感じた気持ちの変化の方が、僕の人生にとっては大きかったんじゃないかなと思います」と振り返る。
竹中七海アスリートキャスターが取材したのは、8月に開催された101回目の「ブレードランニングクリニック」。会場となった有明のBrilliaランニングスタジアムには、競技用トラックと競技用義足の研究所が併設されている。
義肢装具士のサポートを受けて自分に合ったブレードを装着した参加者らは、ウォーミングアップで足を高く上げたり、左右に足を動かしたりして、少しずつ動きに慣れていく。細かくステップを踏む段階から、本気を出して60m走のタイムを計測。最後はチームに分かれてリレーで競い合った。
一生懸命に走っていた小さな男の子は「速くなった」と楽しそう。保護者も「走るということが楽しくなったみたいで、自分の武器みたいなものを少し見つけられたのかなという感じはします」と話していた。
両足が義足の女性は、竹中キャスターと一緒に走って先着した。「最初は板バネに慣れなくて、全然走れなかったんですけど。今は周りの人とそんなに変わらない感じで走れていると思います。みんなと楽しく走れるから、(それが)原動力というか」と話す。実はT62の日本記録保持者と後で聞いて、竹中キャスターは驚いていた。
パラリンピックを目指したいと話す参加者もいるが、佐藤さんは「義足で走ることが、パラスポーツとイコールではないと感じています。運動会で走りたいとか、趣味でランニングをしたいとか、いろんな方がいます。いろんな選択肢があるけど、とりあえず走ることを楽しんでくれたらいいなという想いがあります」と話す。
「小さい子にはこういう環境が重要。参加して盛り上げたい」「みんなと比べて自分がどんな状況にいるかがわかる」など、参加者のポジティブな感想も聞ける取材VTRは21:48から。
「東京2020パラリンピックを契機に、競技用義足やパラスポーツが認知されるようになってきた」と佐藤さん。一方で、課題も感じているそうだ。
その一つが、ギソクの図書館の拠点が東京のため、全国に活動を広げていくこと。今年4月には、愛媛で行われた日本パラ陸上競技選手権に伴って、出張してクリニックを実施しており、「地方での活動はこれからもやっていきたい」と話す。
活動を広げるために大切なのが、健常者を含む周囲のサポート。「ささいなきっかけでもありがたいなと思っています。陸上関係で興味を持つ方もいれば、福祉という視点で興味を持ったり、義足の工学的な部分で興味を持つ方もいます」と、参加と理解を呼び掛けた。
「義足って一言で言っても、実はいろんな状態があるんです。僕の場合だったら片足で膝から下が義足だけども、両足ともない人もいれば、片方が膝より上で片方が膝から下の人もいる。義足になる理由も、病気の方もいれば、生まれつきない方もいる。義足になる時期も、定年以降になる方もいる。本当にいろんな方がいて、抱える問題も人それぞれだと思うんですね。ひとくくりに義足はこれだということは難しくて、人それぞれに合った課題感や問題があるということは、僕自身も気をつけないといけないと感じます」
佐藤さんが活動への想いや、義足について知ってほしいことを語ったのは39:15から。
番組の冒頭では、引退後の佐藤さんの仕事も紹介。現在はトヨタ自動車でトヨタスポーツ推進部 スポーツ支援室 ダイバーシティ推進グループに所属している。
社業での主な活動の一つが、パラスポーツの普及活動だ。愛知・名古屋2026アジアパラ競技大会に向けて、豊田市内の小学校などを訪れて子どもたちへの講師を務めている。
また、トヨタに所属する3人の個人アスリートのマネジメントを担当している。パラ陸上競技では、短距離の石田駆選手と、走幅跳を主戦場とする石山大輝選手をサポート。石山選手は今回の生放送中もチャットに参加し、視聴者からのパラ競技に関する疑問に対して、佐藤さんに代わって回答するという逆サポートを見せていた。
もう一人サポートしている豊田兼選手は、9月13日に国立競技場で開幕する東京2025世界陸上で、400mハードルに出場する予定。「僕も応援に行きます!」と佐藤さんも意気込んでいた。
毎週金曜日11:50からYouTubeで生配信しているトヨタイムズスポーツ。次回(2025年9月12日)は、陸上競技を深掘り。世界陸上に出場する10000mの鈴木芽吹選手を先輩太田智樹選手が、円盤投の湯上剛輝選手を湯上選手の奥様が、400mハードルの豊田兼選手をコーチの高野大樹さんが #となり目線 で紹介。ぜひ、お見逃しなく!
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