2024/03/08

あなたの"推し"がWRCドライバーに!?モリゾウチャレンジカップ初戦密着レポート!


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2024年3月1日〜3日にわたり、「Rally三河湾2024 Supported by AICELLO(ラリー三河湾)」が開催された。2024年の全日本ラリー選手権(JRC)の初戦として開催されたこのイベントに今年から新たに加わったのが、モリゾウ(豊田章男会長)が発案した「モリチャレ」こと「MORIZO Challenge Cup(モリゾウチャレンジカップ)」。世界に羽ばたく次世代のラリー選手をサポートする新しいカテゴリーの模様をレポートする。

未来のWRC人材を育む“モリチャレ"とは?


“モリチャレ"こと「モリゾウチャレンジカップ」とは、WRCで活躍できる次世代の日本人若手ラリードライバーを発掘・育成するため、モリゾウこと豊田章男会長の主導でTGRが新たにJN-2クラスのサブカテゴリーとして設置したクラスのこと。

そしていよいよ、「全日本ラリー選手権(JRC)」の初戦として開催された「ラリー三河湾」でそのチャレンジが始まる。

知多半島と渥美半島に囲まれた三河湾がモリチャレのデビューの地となる

知多半島と渥美半島に囲まれた三河湾がモリチャレのデビューの地となる

国内最高峰のラリー選手権、全日本ラリーは、車両の駆動方式や排気量などによりJN-1からJN-6までの6つにカテゴライズされ、2024年は本大会を皮切りに、全8戦でチャンピオンを決定する。「モリチャレ」はそのうち6つのラウンドが行われる。
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「モリゾウチャレンジカップ」は、全日本ラリー選手権の「ラリー・カムイ」と「ラリー北海道」をのぞく6大会での開催となる

「モリゾウチャレンジカップ」は、全日本ラリー選手権の「ラリー・カムイ」と「ラリー北海道」をのぞく6大会での開催となる

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海岸沿いの道から山間部を走る風光明媚な三河湾エリアでの初ラリーとあって、往年のファンはもちろん、豊田市を中心に一昨年、そして昨年の11月に開催された「ラリージャパン2023」の熱い戦いでラリーの魅力を知った新しいファンからも大きな期待が集まっている。

GRヤリスのワンメイクでしのぎを削るガチンコ勝負


「モリゾウチャレンジカップ」の参戦資格は、原則25歳以下の若手(経歴によっては29歳まで参戦も可能)。シリーズを通じた成績優秀者にはラリーの本場・フィンランドのTOYOTAGAZOORacingWorldRallyTeamが主催する講習会への参加権が授与される。
使用車両はトヨタGRヤリスのみのワンメイク。改造範囲も制限することでドライバー/コ・ドライバーの真の力量が問われる

使用車両はトヨタGRヤリスのみのワンメイク。改造範囲も制限することでドライバー/コ・ドライバーの真の力量が問われる

モリチャレはトヨタGRヤリス(1.6Lターボエンジン+GR-FOUR搭載車)のみのワンメイク。

さらに改造の範囲を制限することで参戦コストを抑え、ドライバー/コ・ドライバーの実力が際立つイコールコンディションを意識したレギュレーションを採用しているのが大きな特徴だ。

モリチャレをプロデュースしたモリゾウは今年1月に開かれたオートサロンのTOYOTA GAZOO Racing(TGR)ブースで行われたトークショーで「モリゾウチャレンジカップ」の開催を宣言した。

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「スポーツで世界レベルを目指すには、いろんなカテゴリーで導入からステップアップできるルートを作ることが必要。ラリー世界選手権に出ているトヨタが、『トップはここにある』という頂点を若手に示し、『ここに入れば将来は上に行ける』と。(勝田)貴元もそこからWRCのレギュラーになった。“次の貴元"をもっともっと増やしていくことこそが、ラリー界を盛り上げるきっかけになる」と、コンセプトや思いを説明した。

そのモリゾウの思いに応えるかのように勝田選手は、監督として「TK motorsport」を創設。

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「現役のWRCドライバーだからこそやる意味がある。モリゾウさんが若手の育成を掲げたサブカテゴリーを作ってくれたことに感謝し、自分の培ってきたノウハウを伝えていくことで恩返しをしたい」と、モリチャレ参戦を表明。国内外のモータースポーツファンからも大きな注目を集めることとなった。
ラリー経験者やラリチャレ出身者をはじめ、ドリフトなど、参加ドライバーのキャリアはさまざま

ラリー経験者やラリチャレ出身者をはじめ、ドリフトなど、参加ドライバーのキャリアはさまざま

選手の出身カテゴリも多彩な「モリゾウチャレンジカップ」


今年のラリー三河湾にエントリーしたのは以下の7チーム。

(ドライバー/コ・ドライバー/チーム名)

18号車/大竹直生/藤田めぐみ(TOYOTA GAZOO RacingーWRJ)

19号車/山田啓介/藤井俊樹(FIT-EASY Racing)

20号車/貝原聖也/西﨑佳代子(ADVICS with K-One Racing Team)

21号車/KANTA/保井隆宏(TK motorsport)

22号車/中溝悠太/小藤桂一(MATEX-AQTEC RALLY TEAM)

24号車/星涼樹/梅本まどか(CUSCO Racing)

25号車/最上佳樹/前川富哉(FIT-EASY Racing)

すでにフィンランドで2年のラリー修行経験を持つ大竹選手や、JN-2クラスでの優勝経験もある山田選手、ラリチャレで頭角を表した貝原選手などさまざまな経歴を持つ若手ドライバーが集結した。

そして、トヨタイムズスポーツの視聴者のなかには、勝田貴元選手が監督として立ち上げた「TK motorsport」チームのドライバーである、KANTA選手の名前を覚えている人も多いはず。

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ドリフトの世界で活躍するKANTA選手がモリチャレに参加することになったのは、FORMULADRIFTJAPANの岡山で行われた最終戦でのできごとがきっかけ。
チェイサーを駆るKANTA選手(写真左)がラリーの世界王者ロバンペラ選手を下したFORMULADRIFTJAPANの最終戦

チェイサーを駆るKANTA選手(写真左)がラリーの世界王者ロバンペラ選手を下したFORMULADRIFTJAPANの最終戦

ラリーの世界王者カッレ・ロバンペラ選手を下しシリーズを制したKANTA選手の走りに、トヨタイムズスポーツの放送のため現地で解説を担当した勝田選手が「心を掴まれてしまった」と大興奮。

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「岡山で目に焼きつけたドライビングだけでなく、人間性にも興味が湧いた。KANTA選手となら、WRCチャンピオンという自分の目標はそのままで、一緒に夢を追いかけていけると思った」と感じた勝田選手は岡山のレース後すぐにKANTA選手にコンタクト。SNSや電話でチームにリクルートしたという。トヨタイムズスポーツの配信が縁となってモリチャレに参加することになったといえるだろう。

そして、競技が開始される前日の3月1日に行われたセレモニアルスタートには、モリゾウも駆けつけ選手たちを激励。

セレモニアルスタートへ出発する選手をモリゾウが見送る場面も(写真はカーナンバー19の山田啓介/藤井俊樹組)

セレモニアルスタートへ出発する選手をモリゾウが見送る場面も(写真はカーナンバー19の山田啓介/藤井俊樹組)

7台のGRヤリスが沿道のファンの声援を受けながら無事にスタートを果たし、いよいよ翌日から始まるSSでモリチャレの本番を迎える。

走りを左右する「レッキ」と「ペースノート」とは?


タイムアタックのレポートの前に、ここでラリーをより深く理解してもらえるよう「レッキ」について説明したい。
助手席の梅本まどかコ・ドライバーが手にしているのが「ペースノート」

助手席の梅本まどかコ・ドライバーが手にしているのが「ペースノート」

レッキとは、タイムアタック前にドライバー/コ・ドライバーがコースを下見運転し、コーナーの方向や角度、次のコーナーまでの距離などを確認する作業のこと。

そして、レッキで収集した情報を紙のノートに記載したものが「ペースノート」だ。一般のドライバーにとっては「カーナビ」のような存在で、「30m先を右」など、ペースノートにインプットされた情報をコ・ドライバーが読み上げ、それをドライバーが理解することで初めてハイスピード走行としてのアウトプットが可能となる。

緻密なペースノートで星涼樹選手をサポートするコ・ドライバーの梅本まどか選手

緻密なペースノートで星涼樹選手をサポートするコ・ドライバーの梅本まどか選手

「ペースノートをしっかり作れないと、抑えるところでは抑さえ、攻めるべきとこで速く走ることはできない」と話すのは、星涼樹選手とペアを組むコ・ドライバーの梅本まどか選手。コースのセクションに応じてラリーカーをコントロールするには、このレッキでどれほど精度の高いペースノートを作れるかもたいへん重要になる。

モリチャレのドライバーの中にはラリー未経験者もいるため、コ・ドライバーの存在や関係性がドライバーのポテンシャルを引き出すことになりそうだ。

DAY1:北欧帰りの大竹が大躍進!しかし…


セレモニアルスタートから一夜明け、いよいよモリゾウチャレンジカップのタイムアタックが始まる。タイムアタック初日となるDAY1では、蒲郡市を中心に幸田などを走るSS(スペシャルステージ)が行われた。
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コ・ドライバー出身の稲葉選手は本ラウンド不参加。佐賀県で開催される次のラウンド、「ツール・ド・九州2024in唐津」(4/12〜14)からの参戦となり、今回のラリー三河湾では7台での戦いとなった。
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「SS1/ヒメハル」は残念ながら競技序盤でキャンセルとなり、モリチャレの記念すべき初SSは「SS2/がまごおり竹島1」からのスタート。初日から見応えのある展開となった。

序盤で頭角を現したのは、フィンランドでのラリー参戦経験を持つ大竹選手。

フィンランドでラリー経験を積んだ大竹選手は、安定した走りで序盤に大きく躍進

フィンランドでラリー経験を積んだ大竹選手は、安定した走りで序盤に大きく躍進

スパ西浦モーターパークのサーキットから海岸沿いの一般道を走る「SS3/西浦シーサイドロード1」

スパ西浦モーターパークのサーキットから海岸沿いの一般道を走る「SS3/西浦シーサイドロード1」

大竹選手はSS2でトップタイムを記録すると、SS4からSS7まで4つのタイムアタックを連取。2番手で追う貝原選手に13.1秒の差をつけることに成功した。
「SS4/幸田遠望峰山」はアップダウンの激しい、ジャットコースターのよう激しく上り下りのあるハイスピードコース(写真は22号車/中溝悠太/小藤桂一組)

「SS4/幸田遠望峰山」はアップダウンの激しい、ジャットコースターのよう激しく上り下りのあるハイスピードコース(写真は22号車/中溝悠太/小藤桂一組)

最上選手はSS6でのマシントラブルでトップ争いからは一歩後退。そして注目の大竹選手は好調から一転、初日を締めくくる午後のループの「SS8/ヒメハル2」で、オーバースピードからコースオフ。怪我はなかったものの、マシンにダメージを受けてリタイアを喫してしまう。
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泥や落ち葉が道路脇に積もる狭い林道が続くヒメハルは、JN-1ドライバーですらレッキで「一番ハードだ」と評する過酷なセクション。三河湾を沸かせた大竹選手にとって苦いモリチャレデビューとなったが、その存在感はファンの目に焼きついたことだろう。この時点でモリチャレトップの貝原選手は、JN-1カテゴリを含む総合順位で7位。山田選手も総合9位と大健闘し、4.1秒のビハインドでモリチャレ2位につけ充実した表情を見せた。
初日を首位で終えた貝原/西﨑組。総合でも7位と大健闘した

初日を首位で終えた貝原/西﨑組。総合でも7位と大健闘した

初日を終えた貝原選手は「バリエーション豊かなセクションを経てクルマの特性を勉強しながらペースを作り、1日目を無事完走できた。2日目もコ・ドライバーと作り込んだペースノートで危ないポイントをしっかりおさえ、息を合わせて走っていきたい」とコメント。最終日の明日に向けての意気込みを語った。

DAY1の各SSの結果と総合タイムは以下のとおり。

青色の背景で示されたラリー経験者が順当に上位に。つづいてドリフト組が続く形になった

青色の背景で示されたラリー経験者が順当に上位に。つづいてドリフト組が続く形になった

DAY2:初戦とは思えないほど盛り上がったバトル


山間部のSSがメインとなった最終日のDAY2。路面は基本的にターマック(舗装路)だが、SS/11と14の「SSSKIZUNA」ではグラベル(未舗装路)を走ることになるため、素早いマインドの切り替えや対応力を問われることになる。
「SS11/KIZUNA1」で初のステージ勝利をあげたKANTA/保井隆宏組

「SS11/KIZUNA1」で初のステージ勝利をあげたKANTA/保井隆宏組

その「SS11/KIZUNA1」で覚醒したのはKANTA/保井隆宏組。ギャラリーが詰めかけたクローズドコースということもあってか、ドリフトの王者として期待に応え面目躍如の勝利をあげた。
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前日まで2位だった山田選手は「SS9/岡崎桑谷山1」を制して首位に。貝原選手は「SS10」を制するものの一歩及ばず、午後のループでも「SS12/岡崎桑谷山2」を制した山田選手にタイム差を20.1秒にまで拡大されてしまう。

しかし貝原選手は、「SS13」を圧巻の走りで奪取し、再び首位に。この段階でのタイムは、トップの貝原選手が1:16:39.9、追う山田選手が1:16:40.2と、その差はたった0.3秒の接戦となりギャラリーをざわつかせた。

「KIZUNA」とはトヨタグループの研修施設で、施設前の広場に設定された580メートルのコースでのタイムアタックとなる

「KIZUNA」とはトヨタグループの研修施設で、施設前の広場に設定された580メートルのコースでのタイムアタックとなる

十分逆転が狙えるタイム差という情報が拡散し、ギャラリーからも熱い視線が送られるなか迎えた最終タイムアタックの「SS14KIZUNA2」。
SS14のタイムアタックの前には、モリゾウ選手と勝田貴元選手によるデモ走行も行われた

SS14のタイムアタックの前には、モリゾウ選手と勝田貴元選手によるデモ走行も行われた

距離は580メートルと短いものの、砂や大小の小石が混ざるテクニカルなグラベルコースとなるため、一瞬の気も抜けない展開が予想される。
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先に出走したのは貝原/西﨑組。前のSS13でパンクを喫しエアプレッシャーを失っていたせいか、いまひとつ攻めきれない印象のドライビングでフィニッシュした。
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0.3秒で追う山田選手が満を持してスタート。中盤のターンで一瞬もたつく場面もあったものの、安定した走りをみせ危なげなくゴール。貝原選手との差を逆転することに成功。5.1秒差でモリチャレカテゴリー優勝はもちろん、JN-2クラスでの優勝まで果たした。
サービスパークへと帰投する貝原/西﨑組

サービスパークへと帰投する貝原/西﨑組

そして、タイムアタックは終わっても、無事にサービスパークに帰投するまでがラリー。リエゾンに設定された一般道を法規に従って走行し、ラグーナビーチにあるサービスパークに到着。モリチャレ選手たちの初めての挑戦は幕を下ろした。
サービスパークにて

サービスパークにて

モリゾウチャレンジカップ・ラウンド1「ラリー三河湾」の最終的なリザルト、各SSの勝者は以下の通り。

1位:山田啓介/藤井俊樹(1:17:21.9)

2位:貝原聖也/西﨑佳代子(+5.1)

3位:KANTA/保井隆宏(+4:18.8)

4位:星涼樹/梅本まどか(+5:37.4)

リタイア:大竹直生/藤田めぐみ

リタイア:中溝悠太/小藤桂一

リタイア:最上佳樹/前川富哉

(出走7台、完走4台)

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“モリチャレ"でお気に入りNEXTヒーローを見つける


さまざまなバックグラウンドを持つ若手選手がエントリーする「モリゾウチャレンジカップ」。異なるモータースポーツの価値を知る者たちがライバルとして切磋琢磨し、世界を目指す仲間としてラリーに打ち込むことで想像もしなかった才能が開花する可能性にはワクワクさせられる。
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日本人唯一のWRCドライバーである勝田貴元選手もサーキットからラリーに転身し、いまやラリーの頂点であるWRCで一線級の走りをしているのはみなさんご存知の通り。
優勝した山田啓介/藤井俊樹組をサービスパークで祝福するモリゾウの姿も

優勝した山田啓介/藤井俊樹組をサービスパークで祝福するモリゾウの姿も

第一戦を制した山田啓介選手は「最終SSのスタートでは、いままでのラリーシーンがフラッシュバックして、ここで勝たないと意味がないと2人で気合を入れて挑みました。勝つことができて素直に嬉しい。良いスタートが切れたので、今回見つけた課題を一つずつ改善し、レベルアップしてシリーズチャンプを目指したいです」とコメント。

そして自称大会の“チアリーダー"でもあるモリゾウ(豊田章男会長)は「レベルの高いカテゴリーと同じ舞台で戦うことで、自分たちがいまどこにいるかが理解できる。ものすごく遠くなのか、頑張れば手が届くのか。それがわかるだけで頑張れる。そういう意味で今回のラリー三河湾は(モリゾウチャレンジカップにとって)最高のスタートになったと思います」と大会を締めくくった。

次回のモリゾウチャレンジカップは、4/12〜14に佐賀県で開催される「ツール・ド・九州2024 in 唐津」。いまから「モリゾウチャレンジカップ」でお気に入りの選手を見つけ、応援しながら追いかければ、ラリーの世界をより深く楽しむことができるだろう。

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