2025/03/11
3月7日のトヨタイムズスポーツは、全日本ラリー選手権を特集した。
今回注目したのは、助手席に座ってドライバーをナビゲートするコ・ドライバーの役割や技術。百戦錬磨のコ・ドライバー保井隆宏選手をゲストに迎え、ラリーの世界をマニアックに深掘り。
さらに開幕戦のラリー三河湾の結果を振り返り、JN1クラス優勝を飾った勝田範彦選手と保井選手コンビのペースノートを公開! 車載カメラの映像とともに、生でノート読みを披露してもらった。
ラリーが他のモータースポーツと異なる点の1つが、ドライバーの相棒として同乗するコ・ドライバー(コドラ)の存在。コースの情報を記録したペースノートを読み上げ、運転中のドライバーをサポートする仕事で知られ、速く走るためには重要と言える。
ゲストの保井選手は、ラリー歴20年で、世界最高峰のWRCをはじめ、国際ラリーや全日本ラリーなどトップカテゴリで100戦以上。初心者向けのラリーチャレンジでも、スケートのショートトラックで冬季オリンピック4度出場の寺尾悟さんのコ・ドライバーを務めた。
昨年の全日本ラリーでは、ドリフトのチャンピオンKANTA選手のラリーデビュー、モリゾウチャレンジカップ参戦をサポート。そして今年は、全日本9度の年間チャンピオンの実績を持つ勝田範彦選手と16年ぶりにコンビを組む。
まず、コ・ドライバーがどんな仕事をしているかを保井選手に聞いてみた。
リストにしてみると、本番前からレッキ(事前の試走)、競技本番まで、やらなければならないことは10以上。時間の管理やタイヤ圧の確認なども含めて、ドライバーに運転に集中してもらうために、あらゆるサポートを行う。
とくに大事なのは、レッキで行うペースノートの作成。全日本ラリーの場合は2回試走することができ、1回目はドライバーが運転しながらコースの状態についてしゃべり、コ・ドライバーがメモを取る。2回目はコ・ドライバーが本番同様にノートを読み上げながら、ノートを修正する。
競技区間のSS(スペシャルステージ)への移動区間であるリエゾンも、どの道を走るかは決められており、コ・ドライバーはルートを指示しながらさまざまな準備を行う。そのため、ギャラリーが手を振っているのに気づかないことがあり、保井選手は「全然手を振り返してくれないとか言われるんですけど、その時たぶん忙しかったから。コ・ドライバーは無愛想に見えることが多い。そこは本当にごめんなさい」と弁解していた。
保井選手に持参してきてもらったのが、前週のラリー三河湾で使用したばかりのペースノート。勝田範彦選手と一緒に作り上げ、開幕戦の優勝を飾ったノートだ。
ペースノートは一見すると殴り書きのようにも見えるが、基本的には清書をしないという。保井選手は「レッキの時に忙しくてグチャグチャになっていると、ここは急いで読まなきゃいけないというのがわかるので。清書しちゃうと、その温度感がなくなる。自分で読めなかったらもちろん書き直しますけど」と理由を説明する。
記入例の一つが「R3QL3グレ チョースバヤク一気に!」。RとLは右コーナーと左コーナー、続く数字はコーナーのキツさを0から10で示している。Qはクイックと読み、コーナー間のストレートの距離を感覚的に表す。ちなみにグレは排水溝の蓋のグレーチング。後半の「超素早く一気に」は読み上げず、保井選手自身への指示を示している。
ペースノートの解説は20:26から。
ペースノートの書き方は、ドライバーの感覚に合わせて作るため、コーナーの大きさと左右の順番などは、人によって異なる。昨年のKANTA選手のペースノートの場合、将来のWRCを見据えてベースは英語で、数字なども英語で読み上げていた。
視聴者からは「他のドライバーにノートを見せるのはルール違反になりますか?」という質問も。保井選手の回答は「ルール違反ではないです」。意外にもノートの情報を交換することは多く、他の人のノートを使っても速く走ることはできないそうだ。
森田京之介キャスターは「ドライバーの『ノートの精度が良くなかった』というコメントは、コドラが悪かったわけじゃないんですね」と納得していた。
ここで、ラリー三河湾のレッキでの車載カメラの映像に合わせて、実際にペースノートを保井選手に読み上げてもらった。
映像より数秒後のコースの状態を、わかりやすい声で読み上げる、プロの技術が披露されたシーンは36:12から。
スタジオで保井選手が読み上げたのは、青い円で囲まれたラリー三河湾のコース
森田キャスターからは、「読み遅れちゃったらどうする?」「ドライバーが聞けない状態もあるのでは?」など、マニアックな質問が次々とぶつけられ、保井選手も話は尽きない様子だった。
ラリー三河湾のもう1つ注目のカテゴリが、2年目を迎えたモリゾウチャレンジカップ。開幕戦には、今年もエントリーした大竹直生選手や稲葉摩人選手、最上佳樹選手をはじめ、ニュージーランドからジール・ジョーンズ選手、女性ドライバーの兼松由奈選手や平川真子選手ら計9人が参戦した。
初戦を飾ったのは、昨年は総合2位で悔しい思いをした大竹選手。コドラの経験を生かしてドライバーに挑む稲葉摩人選手も2位に入った。
また、JN2クラスはモリゾウチャレンジカップの卒業生で初代王者の山田啓介選手が制した。卒業生ではコドラの前川富哉選手が実際にフィンランドへ行き、TGRワールドラリーチームのもとで修行しているなど、参加選手の将来が楽しみだ。
保井選手が優勝したJN1クラスも含めた、ラリー三河湾のVTRは44:15から。
表彰式では、範彦選手からシャンパンの洗礼を受けて、「洗濯大変だから!」と叫ぶ保井選手の姿が印象的だ。範彦選手は「コ・ドライバーだけじゃなくて他の部分でもすごくサポートしてくれるので、ドライバーを気持ち良く走らせたいという想いがすごく強い。さすがプロだなと思いましたね」と保井選手とのコンビを振り返った。
コ・ドライバーの役割は「野球のキャッチャー」にたとえられ、他の選手らは「ツアーコンダクター」「ゴルフのキャディ」とコメントしていた。保井選手はチーム全体をバンドのツアー、ドライバーをボーカルにたとえ、自身を「ドラムやベース」と表現する。
ペースノートでリズムを刻み、どんなドライバーも安全に速く導くのがコ・ドライバー。助手席に座る奥様への小言を呟く森田キャスターに「コ・ドライバーは大切にした方がいいですよ」という私生活へのアドバイスも出たように、ラリーでは必要不可欠な存在だ。コドラを見ていれば、ラリーはもっと面白くなる!
毎週金曜日11:50からYouTubeで生配信しているトヨタイムズスポーツ。次回(2025年3月14日)は、スーパーフォーミュラを特集する。鈴鹿で行われた開幕戦と第2戦の結果や、近藤真彦JRP会長が就任して3年目の盛り上がり、若手ドライバーの活躍などをお伝えする予定。スタジオゲストは新チームKDDI TGMGP TGR-DCの片岡龍也監督。ぜひ、お見逃しなく!
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